第14回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble
第14回Anesthesia Morning Café Professor’s Bibble-Babbleは、下記の論文をご紹介します。
Supplemental intraoperative oxygen and long-term mortality. Subanalysis of a multiple crossover cluster trial.
Jiang Q, et al.
Anesthesiology 2021; 134: 709-21
手術部位感染(surgical site infection: SSI)の総発生率は1-3%、大腸直腸手術に限っては10%以上と報告されています。細菌感染に対する一次防御は、好中球による酸化的防御となります。つまり組織酸素濃度を上昇させればSSIリスクが減少するという仮説の下、約20年前より周術期酸素濃度とSSI発生率に関する調査研究が始まっています。当初はこの理論にsupportiveな結果が得られましたが、その後の大規模研究では同様の結果は得られず、最近のメタアナリシスでは、周術期高濃度酸素投与はせいぜいわずかしかSSIを減らさないと結論づけられました。
しかしこの論文で調査しているのは、周術期高濃度酸素投与とSSIに関することではありません。
Important Point Here!!
皆さんもMeyhoffらのPROXI trialという研究論文を読まれたことがあるかもしれませんが、その結果の中で、周術期の80%酸素投与はSSIを減少させましたが、それ以上の衝撃は、術後死亡率のハザード比を30%増加させた(median follow-up: 2.3年)との結果でした。死亡率が増加したのはがん患者に限定されていたことから、その要因として、高濃度酸素に誘導された血管新生による腫瘍増大、エリスロポエチン放出促進、活性酸素によるDNA損傷が推定されました。一方、その後に行われた多くの研究では、80%酸素の周術期投与が術後死亡率に影響する結果は認められていませんが、ある程度の術後経過年数の観察を有する大規模比較研究における判定が必要とのことで、本研究が為されました。
30%酸素投与群(n=1718)と80%酸素投与群(n=1753)で比較された結果を要点のみ書きますが、
2年生存率 30%酸素投与群 90% 80%酸素投与群 91%
5年生存率 30%酸素投与群 80% 80%酸素投与群 80%
と有意な差は認められませんでした。
つまり「周術期の酸素投与は、術後死亡率を増加させることはなく、安全に使用できる。」という結論になりますが、さらに独断で結論に加えるとすると、「むやみに高濃度にする必要もなく、適切に投与しましょう。」ということになるでしょう。詳細は論文をご確認ください。