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WEB抄読会 第9回

WEB抄読会第9回は大島先生よりご投稿いただきました。ありがとうございます。ご自分の研究領域に関連するGABAA 受容体に関する論文です。

 

Lewter LA, Golani LK, Cook JM, et al.

Blockade of α1 subtype GABAA receptors attenuates the development of tolerance to the antinociceptive effects of midazolam in rats.

Behav Pharmacol : 2021; 32: 345-50

 

 全身麻酔薬が使用されるようになって150年以上経過しますが, どのようなメカニズムで麻酔薬が作用しているのか, 未だに明確な答えは出ていません. 現在に至るまで, 圧拮抗減少, 細胞膜脂質への作用など様々な理論が発表されてきました. 近年の研究では, 麻酔薬はニューロン表面の受容体タンパク質に作用することが明らかになってきました. 神経細胞には様々な受容体が存在しますが, 特にγ-アミノ酪酸 (gamma–amino butyric acid : GABA) をリガンドとするGABAA受容体が注目されています.

 抑制性の神経伝達物質であるGABAがGABAA受容体に結合すると, シナプス上の受容体の構造が変化し, 陰イオンであるCl-の流入により神経細胞内の陰イオン濃度が上昇します. これによって細胞内にマイナス電位が生じ, ニューロンは興奮性の活動電位を発生できなくなります. 多くの麻酔薬は, このGABAA受容体に結合した際の神経抑制効果を強めるものと考えられています. GABAA受容体には, いくつかのサブタイプが存在し, サブタイプによって構造と機能が微妙に異なることが知られています. さらに, 麻酔薬に対する反応性や感受性も異なるといわれています. 全身麻酔の導入や術後の鎮静などでも使用されるベンゾジアゼピンは, α1, α2, α3, α5サブタイプを含むGABAA受容体に結合し作用することで, 鎮痛, 鎮静, 健忘などの異なる作用を発揮することがわかっています.

 この研究は, α1サブタイプGABAA受容体アンタゴニストであるβCCt (β-carboline-3-carboxylate-t-butyl ester) や3PBC (3-propoxy-β-carboline hydrochloride)と, ベンゾジアゼピンであるミダゾラムを組み合わせて投与することによって, ラットでの抗侵害受容性効果に対する耐性を少なくできるかどうかを調べたものです.

 ラットに 3.2 mg/kg のミダゾラムを投与し, 運動量を30 分間測定したところ, コントロール群(3535±329 cm)に対し, ミダゾラム投与群では有意に運動量が減少しました(377.1±136cm). しかし, GABAA受容体アンタゴニストであるβCCtとミダゾラムを投与したラットでは, コントロール群と同程度の運動量が保たれました(2576±526 cm).

次に, CFA (complete Freud’s adjuvant) 接種の2日後に, von Freyフィラメントを使用してPWT (paw withdrawal threshold)を測定しました. 生食投与ラットでは, PWTは有意に減少した(4.30±0.33g)のに対し, ミダゾラム投与ラットでは用量依存性にPWTが上昇しました (EF50値(95%CL)=3.4 mg/kg). さらに, ミダゾラムにβCCtや3PBCを組み合わせて投与しても, ミダゾラムの鎮痛効果に影響を与しませんでした. しかし, これらの薬剤をCFA接種後1-3, 5-7日に隔日投与しPWTを0, 4, 8 日に測定したところ, ミダゾラム単独投与群では4日目にED50値は5.6, 8日目には10.5 mg/kgまで上昇したのに対し, ミダゾラムと3PBCを投与した群では明らかな耐性形成は認めませんでした (4.1 mg/kg). また, ミダゾラムとβCCを投与した群でも同様に耐性を認めませんでした (3.5 mg/kg).

 これらの結果から, αサブタイプGABAA受容体はベンゾジアゼピンの耐性形成に関与していること, GABAA受容体α1サブユニットを特異的に阻害するβCCtと3PBCをベンゾジアゼピンと組み合わせて投与することで, ベンゾジアゼピンの耐性形成なく鎮痛効果を得られる可能性があることが示されました.

 個人的には, 短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤 レミマゾラムが発売されたこともあり, GABA受容体に注目しています. 今後は, GABAA受容体の研究が進むことで, 耐性形成がなく鎮痛効果も併せ持つベンゾジアゼピン薬剤が登場するようになるかもしれません.