第17回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble
第17回Anesthesia Morning Café Professor’s Bibble-Babbleは、下記の論文をご紹介します。
Ding H, Trapella C, Kiguchi N, et al.
Functional profile of systemic and intrathecal cebranopadol in nonhuman primates.
Anesthesiology 2021; 135: 482-93
Cebranopadol(セブラノパドール)はドイツのGrünenthal社で開発され、現在臨床試験PhaseⅢが行われている薬です。
Important Point Here!!
この薬はmixed nociceptin/opioid receptor agonistです。オピオイドとしてMOP(μ)、DOP(δ)受容体へはfull agonist、KOP(κ)受容体にはpartial agonist作用を有するオピオイドの一種で、とくにMOP受容体に作用し、強力な鎮痛作用を発揮します。同時にノシセプチン(NOP)受容体にもagonistとして作用して、オピオイド鎮痛作用を増強するとともに、オピオイド投与時に問題となる副作用の減弱化をもたらします。
もともとNOP受容体は、オピオイド受容体に相同性が高く、opioid-receptor like 1 (ORL 1)受容体と命名されていました。既知のオピオイドリガンドには感受性を示さず、いわゆるorphan(孤児)受容体として扱われていましたが、1995年に2つのグループによって内在性アゴニストが発見され、それぞれノシセプチン、オルファニンFQと命名されました。現在では統合され、ノシセプチン/オルファニンFQと表記するようになっています。NOP受容体も正式には、ノシセプチン/オルファニンFQ受容体と表記します。
NOPアゴニストは抗不安作用、降圧作用、鎮咳作用などを発揮しますが、鎮痛に関しては投与する部位や投与量によって、抗侵害作用を示したり、逆に侵害作用を呈したりと、当初鎮痛薬には不向きと思われていました。ところがNOP+MOP受容体を同時に刺激することで、相乗的鎮痛作用と副作用軽減をもたらすことがわかったのです。以前、第10回で紹介したbiased agonistの作用も有しています。現在臨床試験段階にありますが、急性痛、がん疼痛を含めた慢性痛でも有効性が認められています。実験的研究も含めて、呼吸抑制、嗜癖、耐性が起こりにくいことも報告されています。
この論文では、nonhuman primateとしてアカゲザルで抗侵害効果と副作用の有無について検討されています。論文の図を引用して、簡単に結果をお示しします。
尻尾を温水に浸けて逃避反応時間を測定した場合、セブラノパドール(ED50:2.9µg/kg)はフェンタニルと同様に、量依存性に抗侵害作用を示しました(図A)。ところがスクラッチ(かゆみの評価)の回数をみると、フェンタニルでは有意に増加しますが、セブラノパドールでは回数に変化が認められていません(図C)。
MOP受容体拮抗薬のnaltrexoneとNOP受容体拮抗薬のJ-113397を同時に投与した場合、セブラノパドールの抗侵害作用が拮抗され(図D)、DOP受容体拮抗薬のnaltrindoleやKOP受容体拮抗薬の5’-guanidinonaltrindoleでは拮抗されていないことから(図E)、セブラノパドールの鎮痛作用は、主にMOP受容体を介していることがわかりました。
呼吸抑制作用に関しては、フェンタニル投与群で有意に生じましたが、セブラノパドール群では高用量を投与しても発現していません。
つまりアカゲザルにおいても、強力な鎮痛作用と安全性が示されました。
セブラノパドールという新規の鎮痛薬、覚えておきましょう!