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第18回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

第18回Anesthesia Morning Café Professor’s Bibble-Babbleは、神経障害痛へのアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬の応用について紹介します。

 

 神経障害痛には様々な分子メカニズムが関与しています。神経障害痛が維持される原因のひとつとして、プレガバリンやミロガバリンを通して皆さんよくご存知なのが、神経障害後の脊髄後角におけるCa2+チャネルの増生がありますよね。末梢神経Aδ線維やC線維を介する痛み刺激により、脊髄後角とシナプスを形成する神経末端に存在する電位依存性Ca2+チャネルが開放されると、神経内へのCa2+流入がトリガーとなり、シナプス前神経よりサブスタンスPやグルタミン酸、BDNFなどの興奮性神経伝達物質が放出されます。それが脊髄後角のNKやNMDA、TrkB受容体などに作用して痛みを中枢に伝えるわけですが、Ca2+チャネルの増生により神経伝達物質の放出が増幅され、かつ持続的に刺激されることにより脊髄後角は中枢性感作され、刺激感受性が高まります。wind-up現象はよく耳にする中枢性感作を示す代表的現象ですよね。Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の放出を抑えるのが、プレガバリンやミロガバリンであり、神経障害痛には頻用されています。

 

 その他多くの神経障害痛メカニズムが提唱されていますが、アンギオテンシンⅡ受容体の関与については、皆さん見聞きしたことはありますか?アンギオテンシンⅡというと、レニン・アンギオテンシン系(RAS)の循環に関与するホルモンとして当然ご存知ですよね。まずはRASのおさらいですが、

①肝臓で産生されたアンギオテンシノーゲンが、腎より分泌されるレニンによって、アンギオテンシンⅠに変換

②肺のアンギオテンシン転換酵素によりアンギオテンシンⅡに変換

③アンギオテンシンⅡがアンギオテンシンⅡ受容体(AT1RおよびAT2R)を刺激

④直接的な血管収縮作用とアルドステロンの分泌促進によるNa、水再吸収により血圧上昇に寄与

今回はここが主題ではなく、

 

Important Point Here!!

 アンギオテンシンⅡのアンギオテンシンⅡ受容体(AT1RおよびAT2R)への結合は、神経系においては疼痛伝達に関与する!

 

 アンギオテンシンⅡが起こす痛みの機序として、アンギオテンシンⅡが脊髄後角のAT1Rを介したp38 mitogen-activated protein kinase(MAPK)の活性化に起因して痛みを誘発するとか、神経障害部に遊走したAT2Rを表面に有するマクロファージが関与するとか報告がありますが、難しい話はまたにして、ヒトで行われた研究結果をご紹介します。EMA401という選択的AT2Rアンタゴニストを用いた研究です。

 

Rice ASC, Dworkin RH, McCarthy TD, et al. EMA401, an orally administered highly selective angiotensin II type 2 receptor antagonist, as a novel treatment for postherpetic neuralgia: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 clinical trial. Lancet 2014; 383: 1637-47

 最初の論文は2014年のもので、けっこう以前より注目されていた薬物なのです。183名の帯状疱疹後神経痛患者を、EMA401群(100㎎×2/日)とプラセボ群に無作為に分け、28日間経口投与した際の有効性と安全性を評価しています。有効性に関しては、EMA401群で有意なペインスコアの減少が認められました。平均のNRS減少値がプラセボ群の-1.60に比較して、EMA401群では-2.29となっています。NRSが30%および50%以上減少した患者の割合ですが、プラセボ群の25.2%、18.7%に比し、EMA401群では57.6%、33.7%と有意に高率となっています。30%および50%以上のNRS減少のためのNNT(number needed to treat:何人に処方すればその有効性が得られるかの指標です)は4.46、6.66であり、約6-7人に1人は50%以上の減少が得られる結果になっています。プレガバリンのNNTは確か4点台ですので、プレガバリンに比べると若干有効率は低いかもしれません。重篤な副作用はありませんでした。

 

次に同じグループによる最近の論文を紹介します。

Rice ASC, Dworkin RH, Finnerup NB, et al. Efficacy and safety of EMA401 in peripheral neuropathic pain: results of 2 randomised, double-blind, phase 2 studies in patients with postherpetic neuralgia and painful diabetic neuropathy. Pain 2021; 162: 2578-89

 対象は帯状疱疹後神経痛と糖尿病性ニューロパチー患者で、12週間の比較試験です。実は同時に実施されていたサルでの長期投与毒性試験で、門脈周囲の炎症と線維化、胆管過形成などの組織変化と、ALTやASTなどの酵素上昇が認められたため、本試験は途中で中止されています。そのため予定していた約半分の症例数ですが、帯状疱疹後神経痛129名、糖尿病性ニューロパチー137名でデータは得られています。毒性試験のような有害事象は起こっていません。症例数が少ないためか、有効性としては有意差が得られなかったものの、EMA401群(100㎎×2/日)でNRSが低値になる傾向(NRS減少差が-0.5)が認められました。NRSが30%および50%以上減少した患者の割合ですが、プラセボ群の23.6%、10.3%に比し、EMA401群では29.6%、13.4%と差がありませんでした。

 

この2つの研究報告のみではEMA401の有効性は評価できませんが、ATRアンタゴニストの疼痛領域での今後の展開は、preclinical studyで認められた有害事象をどのように解決できるかにかかっているようですね。