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第19回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 皆さん、脳腸相関(brain-gut interaction)あるいは脳腸軸(brain-gut axis)という言葉を聞いたことありますか?乳製品のCMで聞いたことがあるのでは?実は最近、麻酔科の学会でも耳にするようになりました。脳腸相関とは脳と腸管の機能が密に関連し、双方向的に影響することを意味しています。最近では、これに腸内細菌が加わり、脳・腸・腸内細菌軸(brain-gut-microbiota interaction)という概念が提唱されています。痛みの領域でこの事象に関連する代表的疾患としては、過敏性腸症候群(IBS)があります。皆さんご存知の通り、IBSは慢性の機能性胃腸障害で、腹痛、下痢あるいは便秘を繰り返し、高率に不安やうつ症状を伴い、ストレスによって症状が増悪します。慢性的な刺激によって、脳と腸機能が良くない相関をしそうだと容易に予測がつくと思います。

 わかりやすくメカニズムを解説してみましょう。ストレスは、視床下部-脳下垂体-副腎系(HPA)を刺激します。そうすると視床下部室傍核よりcorticotropin-releasing factor、略した方がわかりやすいかもしれませんね、CRFが放出されます。CRFが脳下垂体前葉からのACTHの放出を促し、次に副腎皮質からはcortisolが放出され、交感神経を刺激して覚醒作用を強めるなど、様々なストレスに対応する反応が生じます。いったんストレス状態に置かれても、健常人の場合には視床下部や下垂体へのネガティブフィードバック機構により、CRFやACTHの放出が抑制され、ストレス反応が終結します。

 

Important Point Here!!

 しかしIBS患者のように長時間、慢性的にストレスに曝されると、CRFは視床下部や脳幹にあるCRFtype2受容体に結合し、胃十二指腸の運動抑制を、またCRFtype1受容体に結合し、結腸の運動亢進、平滑筋収縮を強める結果、内臓の侵害受容器を刺激し、内臓知覚を形成します。この刺激が継続されることにより、侵害受容器の末梢性感作が生じ、ちょっとした刺激にも侵害受容器が活性化するようになり、迷走神経や内在性知覚ニューロンを介して、視床への内臓知覚が持続的に伝搬され、腹痛を認知しやすくなります。中枢神経内では持続的な腹痛刺激に加え、cortisolが脳扁桃体に結合することで、CRFの発現を増加させるようになり、さらにストレス軸が活性化され、中枢性の感作が生じます。脳と腸が双方向性に相関して、それぞれの部位の過敏化を起こしてしまうのです。加えて腸管機能の悪化により、常在腸内細菌叢に大きなバランス変化(dysbiosis)が生じ、leaky gut syndrome(腸管壁浸漏症候群)をきたすと、細菌そのものや、細菌が産生するケミカルメディエータやサイトカイン、代謝物、毒素などが血中に移行するbacterial translocationが生じ、全身性の炎症を引き起こす可能性や、中枢神経内への浸潤によりアルツハイマー病やパーキンソン病、うつ病などの中枢神経疾患を誘発する可能性も示唆されています。

 慢性痛治療に用いられるオピオイドですが、長期オピオイド内服もdysbiosisやleaky gut syndrome、bacterial translocationの発生と関連するようですし、オピオイドへの耐性も腸内細菌叢、とくにビフィズス菌や乳酸菌の消失と関係があるとの研究結果もありますので、オピオイド治療時には要注意ですね。

 痛みと脳・腸・腸内細菌軸との関連についてまとめてあるreviewを紹介しておきます。興味があるようでしたらご一読を。

 

1) Moloney RD, Johnson AC, O’Mahony SM, et al.

Stress and the microbiota-gut-brain axis in visceral pain: relevance to irritable bowel sundrome.

CNS Neuroscience & Therapeutics 2016; 22: 102-17

 

2) Guo R, Chen LH, Xing C, et al.

Pain regulation by gut microbiota: molecular mechanisms and therapeutic potential.

Br J Anaesth 2019; 123: 637-54