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第20回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 2021年のノーベル医学・生理学賞は、辛味と熱および痛みを感知するtransient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1) チャネルを特定したデビッド・ジュリアス博士と、触覚の受容体としてPIEZOチャネルを発見したアーデム・パタポーティアン博士の共同受賞となったことは、皆さんも見聞きしたことでしょう。TRPV1はカプサイシンが作用する受容体で、このチャネルの発見は、慢性痛の治療法の開発に大きく貢献しています。痛みの認知や鎮痛に関係しますので、ペインクリニック領域ではよく耳にするワードでもあります。

 パタポーティアン博士は、PIEZO1および2チャネルを発見し、細胞膜に圧力がかかるとこれらチャネルが活性化することで触覚を感知すること、身体の位置や動きを感知することなどを示しました。この触覚を感知するピエゾチャネルに関しては、お恥ずかしいことに、私は今年のノーベル賞受賞のニュースを聞くまでは、まったく知識を持ち合わせていませんでした。その後、このピエゾチャネルが痛みにも関係する事実を知り、驚嘆するのと同時に、これまでの”もやもや”が払拭されるような気持ちになりました。神経障害痛や中枢性過敏状態で生じるとされる動的アロディニア、つまり非侵害性の触刺激や、風が当たる、衣類が擦れる、シャワーなどで誘発される異痛症ですが、これまでこの動的アロディニアの生じるメカニズムは明らかにされていませんでした。もちろん説は提唱されており、たとえば神経障害痛の代表疾患である帯状疱疹後神経痛で考えてみましょう。帯状疱疹発症時、ある後根神経節に寄生していた帯状疱疹ウィルスが宿主の免疫状態の低下に伴い、一神経に沿って遊出してきて皮膚に疱疹を形成します。その疱疹の拡がり、つまり皮膚の炎症に注目しがちですが、通過してきた神経にも当然ながら炎症は生じており、むしろ皮膚よりも神経障害の方が問題で、とくに細径のC線維にワーラー変性が生じます。変性によりC線維からの求心入力が途絶えると、脊髄後角のRexed層において、大径のAβ線維から、本来C線維の入力する浅層に側芽が伸び、シナプスが再構築されることで、末梢の一次ニューロンのAβを介した触覚刺激が脊髄からより中枢へ痛みとして伝搬されるというのが、動的アロディニアの機序の一説でした。たしかにこのセオリーも納得いくものではありましたが、治療に伴って消失する機能的なアロディニアも臨床では良く経験しますので、痛みを伝える神経経路の解剖学的な再構築のみをその成因とするのは、何となく釈然としないなと感じていました。パタポーティアン博士によるピエゾチャネル発見後、このチャネルを指標にした痛み研究が実施されており、アロディニアの新メカニズムに関するデータが出てきています。

 

Liu M, Li Y, Zhong J, et al.

The effect of IL-6/Piezo2 on the trigeminal neuropathic pain.

Aging 2021; 13: 13615-25

 

 簡単に内容を紹介しますが、興味深い結果ですのでぜひ論文を通して読んでみてください。ラットの眼窩下神経を慢性絞扼した神経障害痛モデルにおいて、損傷7日後よりPIEZO2がC線維やA線維上に有意に増加し、21日後にも持続していることがわかりました。このPIEZO2のアップレギュレーションとともに、眼窩下神経領域に動的アロディニアが発現、持続し、かつPIEZO2のインヒビターを投与すると、動的アロディニアの発現は有意に抑えられました。またこのモデルでは炎症性サイトカインであるIL-6もともに増加したのですが、抗IL-6抗体を投与すると、PIEZO2のアップレギュレーションが抑制され、動的アロディニアも抑えられました。つまり痛覚の求心性線維に増生したPIEZO2が動的アロディニア発現の主要因であり、IL-6がPIEZO2の増生を調整する可能性も示唆されました。

 PIEZO2チャネルは、慢性痛をはじめとするさまざまな疾患や痛みを和らげる治療法の開発などに活用されることでしょう。