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WEB抄読会 第26回

新年あけましておめでとうございます。

本年もWEB抄読会を継続していきたいと思います。医局員の皆様、知識の共有のため、ご投稿にご協力をお願いいたします。

第26回は大島先生よりいただきました。新年早々にありがとうございます。

大島先生が行っているがん抑制研究に関連する内容で、がん細胞の増殖と交感神経新生の関連性についての論文です。

 

Amit M, Takahashi H, Doragomir MP, et al.

Loss of p53 drives neuron reprogramming in head and neck cancer.

Nature 2020; 578: 449-54

 

悪性腫瘍と神経の関連について興味があり、調べていた中で興味深い論文があったのでご紹介させていただきます。

過去の研究によって、悪性腫瘍は周囲の神経を利用して周囲の環境を自身の増殖・浸潤に有利なものへと変えていることが明らかになっています。特に、交感神経節後繊維の放出するノルアドレナリンによって胃がん細胞がNGFという神経成長因子を分泌することで交感神経の癌組織への軸索の伸長が促され、さらに増えた交感神経からノルアドレナリンが分泌され腫瘍が増大するということがBernhard W.らによって報告されています( Renz BW.β2 Adrenergic-Neurotrophin Feedforward Loop Promotes Pancreatic Cancer. Cancer Cell. 2018 Jan 8;33(1):75-90.e7.)

Amit Mらは、頭頚部扁平上皮癌周囲に増える交感神経の由来が元々存在する交感神経なのか、それとも別の神経なのかを検証する実験を行いました。舌神経を予め切断したマウスの舌にがん細胞を移植すると、舌神経を切断しなかったマウスに比べてがん組織の交感神経密度が低く、腫瘍の成長速度が緩やかでした。しかし、元々存在していた交感神経を化学物質で焼灼しても舌に移植したがんの成長速度は変わりませんでした。つまり、がんの周囲組織で増殖していた交感神経は、元々存在している交感神経ではなく、感覚神経である舌神経由来であることが示されました。細胞レベルでも、感覚神経が交感神経に変化する事を示しました。

この論文を読んで、感覚神経が交感神経に変化しているという事が驚きでしたし、感覚神経の切断によって腫瘍の成長が抑制される事も画期的だと思いました。癌患者さんにとって、より副作用が少なく苦痛の少ない治療法が開発されることを望みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f: 舌神経切断群では、腫瘍周囲の癌関連交感神経の増殖が抑制された

g: 舌神経切断群では腫瘍容量の増大が抑制された

h: 交感神経破壊薬投与群では、腫瘍容量の増大は抑制されなかった

 

Amit M, Takahashi H, Dragomir MP, Lindemann A, Gleber-Netto FO, Pickering CR, Anfossi S, Osman AA, Cai Y, Wang R, Knutsen E, Shimizu M, Ivan C, Rao X, Wang J, Silverman DA, Tam S, Zhao M, Caulin C, Zinger A, Tasciotti E, Dougherty PM, El-Naggar A, Calin GA, Myers JN. Loss of p53 drives neuron reprogramming in head and neck cancer. Nature. 2020 Feb;578(7795):449-454. doi: 10.1038/s41586-020-1996-3. Epub 2020 Feb 12. PMID: 32051587.