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第24回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 COVID-19陽性患者の帝王切開術は、当院でも数例経験しています。皆さんフルPPE装備で、隔離された手術室から途中退室を許されない状況の中、対応に苦慮されていると思いますが、上手に管理していただき、とくに合併症やトラブルなど現在のところ生じておりません。当然のことながら母体や胎児適応、区域麻酔の禁忌がない限り、麻酔法は硬膜外麻酔併用脊髄くも膜下麻酔が選択されます。COVID-19陽性妊婦の帝王切開術や無痛分娩で、区域麻酔後に神経学的合併症を起こしやすいといった報告も、私の知る限りではないと思いますので、その選択は正しいはずです。しかし単なる憶測ですが、肺炎などある程度の有症状の症例の場合、硬膜やくも膜の穿刺を伴いますので、術後に髄膜炎や脳炎を合併する可能性はないのか気になります。そのリスクをすこし想定しておく必要があるかもしれません。またCOVID-19の合併症として、塞栓症で抗凝固薬が投与されていたり、血小板減少症を呈していたりする場合には、全身麻酔を選択せざるを得ませんので、その点のみ術前に確認をお願いします。

 そもそもCOVID-19陽性妊婦の場合、帝王切開にする必要はあるのでしょうか?経腟分娩ではいけないのでしょうか?私が耳にした話では、中国では、COVID-19陽性妊婦の90%で帝王切開が選択されているとのことです。COVID-19陽性妊婦では早産率が上がるようですし、必要時の緊急手術でなく、出来るだけ安定した状態で予定手術にて対応したいという意識も関連するとは思います。この点が気になったので、COVID-19陽性というだけで、あえて帝王切開を選択する利点があるか少し調べてみました。

 

Martínez-Perez O, Vouga M, Cruz Melguizo S, et al.

Association between mode of delivery among pregnant women with COVID-19 and maternal and neonatal outcomes in Spain.

JAMA 2020; 324: 296-9

 

 この論文では、分娩法が母体のCOVID-19症状の悪化や児への感染に影響するかを調査しています。約1か月中に分娩したCOVID-19-PCR陽性の妊婦82名を対象としています。このうち4名はCOVID-19の症状が重症と判定されており、全員帝王切開で分娩しており、術後はICUで管理されました。残り78名の無症状あるいは軽症妊婦においては、41名(53%)が経腟分娩、37名(47%)が帝王切開で分娩しています。帝王切開が選択された要因としては、29名が産科的適応、8名がCOVID-19陽性という理由のみでした。経腟分娩の妊婦は分娩中の重篤な有害事象は観察されませんでしたが、帝王切開の患者では術中に5名(13.5%)が肺炎の重症化で、人工呼吸を要する状態となり、術後ICUでの管理となっています。産後および術後の経過中には、経腟分娩の2名(4.9%)、帝王切開の8名(21.6%)においてCOVID-19の症状が悪化しています。オッズ比で13.4と、帝王切開術群で悪化率が高くなっています。新生児では、経腟分娩の8名(19.5%)、帝王切開の11名(29.7%)がNICUで管理されていますが、ここには有意な差はなく、COVID-19陽性の母体から生まれた新生児のアウトカムには分娩法は影響しないと判断されます。以上の結果を鑑みると、COVID-19陽性というだけで帝王切開を選択するのは、母体のCOVID-19重症化リスクを高めることに繋がるかもしれません。元々リスクがあるから帝王切開が選択され、その術前リスクのために術後の合併症率も高まっているとも考えられますが、外科手術あるいは麻酔による生理的ストレスが関連するのかもしれません?さらなる検討が必要ですね。