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第25回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

天気が痛みに影響することは、皆さんも生活の中で実感されていると思います。「低気圧が向かって来ているから頭が痛むな」とか。ただし痛みと天気との関係については、いまだに一貫した関係性は実証されていません。これは研究としての方法論、たとえばサンプルサイズが充分なメガスタディーを計画しにくいとか、どのような痛みの患者を対象にするか、天候の細分化の仕方(気温、湿度、風力など)、季節、研究地域など様々な要因を統一化できないことに問題があるのだと推測されます。ペインクリニック外来での診療において、天候の悪い日などに外来にいらっしゃる慢性痛の患者さんの中でも、痛みがいつもより増していると訴える方が多いと感ずる一方、天候は全く影響しないという方もいらっしゃいます。気温なのか、気圧なのか、風の吹き方なのか、おそらく各人にとっての痛みの増悪因子は異なるのでしょう。サンプルサイズを多くして、かつ天候に関する因子を詳細、かつタイムリーに記録することで、天気と慢性痛の強度の変化をとらえた研究があります。

 

Schultz DM, Beukenhorst AL, Yimer BB, et al. Weather patterns associated with pain in chronic-pain suffers. Bull Am Meteorol Soc 2020; 101: E555-66

 

この研究では、エントリーする患者を増やすため、および簡易的に大量のデータを得るために、スマートフォンアプリを利用して、慢性痛の患者さんたちが痛みの状態を簡単に入力できるようにしています。入力項目も簡易にし、たとえば痛みを5段階評価、no pain; mild pain; moderate pain; severe pain; very severe painさせ、スマホのGPSにてその地区のweather stationとリンクさせ、痛みの変化と詳細な天候状況との関連性について調査しています。結果、15カ月にわたり、計10584人の慢性痛を有する市民のデータが得られました。まずは天候とは関係のないところで、痛みの強い曜日は月曜日と火曜日、痛みの弱い日は土曜日と日曜日という結果でした。ん-、なんとも理解できますよね!!問題の天気との関係ですが、ずばり「低気圧」、「高湿度」、「多降水量」、「強風」の際には、痛みも増強するとの結果でした。やはり台風は痛みに影響するんですね。これも大方予想できたと思いますが、方法論を整えた研究エビデンスとして、患者さんに説明するのに利用できそうですね。

 ではなぜこれらの天気の変化が痛みを増強するのか?そこが肝ですが、残念ながらそれはまだまだ全容が明らかにされていません。低気圧と痛み誘発との関連性については、本邦から研究結果が出されています。

 

Sato J, Inagaki H, Kusui M, et al. Lowering barometric pressure induces neuronal activation in the superior vestibular nucleus in mice. PLoS One 2019; 14: e0211297

 

このグループの先行研究では、坐骨神経の慢性絞扼による神経障害痛ラットを気圧を下げた環境におくと、von Freyテストにおける後肢逃避閾値の低下、つまりアロディニアの増強や、ピンプリックテストにおける痛覚過敏の増強が認められています(Neurosci Lett 1999; 266: 21-4)。また完全フロイントアジュバントをラットの脛骨足根骨関節に注入した関節炎モデルにおいても、低気圧はアロディニアと痛覚過敏を増強させています(Neurosci Lett 2004; 354: 46-9)。しかし内耳を破壊した神経障害痛ラットモデルでは、低気圧に暴露してもアロディニアの変化を認めなかったことから、低気圧暴露は内耳神経活動を活性化し、痛みを誘発していると考えられました(Eur J Pain 2010; 14: 32-9)。それを証明するために今回の研究が実施されていますが、低気圧下に置いたマウスの前庭神経核では神経活動のマーカーである最初期遺伝子c-Fosが有意に発現するとの結果が得られています。先行研究において、気温の低下には内耳は関係していないとの結果でしたので、気圧の変化のみを内耳が感知して反応すると考えられます。前庭神経の活性化がどのように痛みに繋がるのか?文献的な考察によると、交感神経活動を増強することが関連する可能性を推測しています。天気痛を解明するには、まだまだ奥深いですね。