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第27回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

サーカディアンリズム(概日リズム)という言葉を、皆さん日常的に耳にしていることでしょう。血圧やホルモン、睡眠など、視床下部の視交叉上核がペースメーカーとなり、約一日周期で一定の生体リズムを刻んでいます。疾患との関係も古くから研究されていて、たとえばheart attackが朝に生じやすいとか、膝のOAの患者さんが痛みを認知するのは、朝に比べて夜に多いとかも、サーカディアンリズムで説明がなされています。同様に、ある疾患に対する治療薬が、ある特定の時間帯に投与されれば有効率が上がり、副作用発現率が下がるといった事実にも、このサーカディアンリズムが関与しています。薬の投与時間の影響を調べる学問をchronopharmacologyといいますが、PK・PDへの影響など麻酔薬の効果についても調査されています。

最近も継続的に論文が報告されていますが、まずは局所麻酔薬についての結果を紹介します。

Nikouli E, Chloropoulou P, Karras G, et al. Circadian effects on neural blockade of levobupivacaine and fentanyl intrathecal administration for caesarean section. Folia Medica 2022; 64: 49-54

帝王切開術時の脊髄くも膜下麻酔の効果についての調査結果です。80名の妊婦を対象に、施行時間により下記の5つのグループに分けています。

A群 8:00-12:00、B群 12:00-16:00、C群 16:00-20:00、D群 20:00-0:00、E群 0:00-8:00

坐位で、L3/4間より25G Quincke針で穿刺し、レボブピバカイン12㎎とフェンタニル0.1㎎を注入し、1分ごとに知覚(hot/cold & pinprick)、運動機能(modified Bromage scale)を評価しました。術後も15分ごとに完全回復まで評価しています。年齢(26-28歳)、体重、身長、BMI(28-32 ㎏/m2)、オペ時間(28-32分)に群間差はありません。

結果ですが、

①  Motor blockの平均持続時間:E群が135分と、A群の203分、B群の196分に比較して短い。

②  Sensory blockの平均持続時間:E群が189分と、A群の271分、B群の297分と比較して短い。

③  術後鎮痛薬リクエスト時間:E群が173分と、A群243分、B群269分に比較して短い。

④  鎮痛薬リクエスト時のNRS:E群で6.6と高い(A群4.5、B群4.7、C群4.7,D群5.0)

つまり夜中に施行された患者では、日中に施行された患者と比べて、局所麻酔薬の効果が有意に短くなっているのです。局所麻酔薬の最大効果は、日中の14-15時頃に得られることが他のいくつかの報告でわかっています。Chronopharmacologyと麻酔薬のレビュー(Chassard D, Bruguerolle B. Anesthesiology 2004; 100: 413-27)によると、薬物分布やタンパク結合率、代謝、膜透過性、チャネルへの到達性などが、時間帯によって異なることが推定されています。「脊髄くも膜下麻酔は、昼間は効きやすく、夜中は効きにくい」、つまり夜間の帝王切開時には硬膜外麻酔を併用するとか、ちょっと工夫が必要ですね。

 

もうひとつ局所麻酔薬の結果を紹介します。

Deng J, Wei C, Liu L, et al. Circadian variation in the median effective dose of epidural ropivacaine for labor analgesia. Front Med (Lausanne). 2021 doi: 10.3389/fmed.2021.669264. 

60人の妊婦で、無痛分娩の対応時間、7:00-19:00と19:00-7:00による差を検討しています。最初の妊婦に0.15%ロピバカイン18㎎を硬膜外投与し、30分以内にVAS≦10/100になれば、次の妊婦では3㎎減、ならなければ3㎎増とするup-down methodを用いて、ED50を求めました。Dayグループの17.9 [16.5-19.4] ㎎に比し、Nightグループは20.9 [19.2-22.7] ㎎と必要量が多くなりました。やはり夜中は局所麻酔薬が効きにくいのです。機序としては、局所麻酔薬のPK・PDの変化以外にも、夜間は睡眠が妨げられることで痛みの閾値が下がったり、セロトニン効果が減少したりしますし、日中は抗侵害作用を有するACTHやコーチゾルが高濃度であり痛みに耐えられますが、夜間はその効果が減少するとも推測されます。

 

次はプロポフォールに関する結果を簡単に紹介します。

Shen Jh, Ye M, Chen Q, et al. Effects of circadian rhythm on Narcotrend index and target-controlled infusion concentration of propofol anesthesia. BMC Anesthesiol 2021; 21: 215

腹腔鏡下の虫垂切除や子宮外妊娠手術などの腹腔内手術患者を対象に、プロポフォールをTCIモードでBISが45-55になるよう調節したところ、8:00-18:00では2.8㎍/ml、22:00-5:00では2.3㎍/mlとなりました。夜間はプロポフォールの麻酔深度が深くなりやすく、投与量を減量すべきことを示しています。

 

最後に筋弛緩薬についてです。

Cheeseman JF, Merry AF, Pawley MDM, et al. The effect of time of day on the duration of neuromuscular blockade elicited by rocuronium. Anaesthesia 2007; 62: 1114-20

ロクロニウム0.6㎎/kgを投与し、TOFカウントが2に回復するまでの持続時間ですが、8:00-11:00では50分と最大値を取り、14:00-17:00では29分と最小値となっています。ヒトの活動期には筋弛緩薬の作用時間が短縮しやすいようです。機序ははっきりとしていません。