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第29回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

今回は、肥満患者における至適筋弛緩と拮抗について再認識しましょう!

 

スキサメトニウム

肥満患者では体重当たりに占める脂肪の割合が増加し、相対的に筋組織の割合は減少していますが、スキサメトニウムの実体重換算量を投与しても、正常体重患者と比較して作用が延長することはありません。これは肥満患者での細胞外液量増加による同薬の分布用量の増大や、スキサメトニウムを代謝する血清コリンエステラーゼ活性の亢進によります。ですので、肥満患者でのスキサメトニウムは、実体重換算で投与量を計算しましょう。

 

ロクロニウム

 ロクロニウムは脂溶性が低いため、分布用量やその他の薬物動態指標は正常体重者と変わりません。つまり除脂肪体重部分に分布すると考えてください。よって臨床的には、計算のしやすい理想体重換算で投与量を求めていると思います。そのドーズであれば、正常体重患者で実体重換算量を投与した場合と比較しても、作用持続時間に有意差は出ません。一方、作用時間の延長を考慮しながら、あえて実体重換算で投与することも「あり」です。肥満患者では、気道確保困難やフルストマックが予測されますから、できるだけ速く気管挿管を完了したいと思うのは当然です。ロクロニウムの気管挿管量については、麻酔科医が何に重きを置くか、例えば、「手術時間が短いので、作用時間を延長させたくない」とか、「とにかく速く筋弛緩を効かせて、速く気管挿管したい」とか、状況やリスクに合わせて投与量を決めるべきでしょう。もちろん筋弛緩モニタリングによる評価は必須です。

 

スガマデクス

 スガマデクスもロクロニウムと同様、脂溶性が低い薬物です。シクロデキストリンの内部、つまりロクロニウムを包接するドーナツ部分の空洞は脂溶性の性質を有していますが、辺縁は陰性荷電を持つ親水性となっています。とすると...「投与量は理想体重でいいのか?」

と思うところですが、なぜかそうでなないのです。ここが重要で、肥満患者のスガマデクス投与量は実体重換算で、PTC 1-2 以降は 4㎎/㎏、TOFカウント 2 以降は 2㎎/㎏を投与しなければなりません。

 理想体重換算で投与した場合、どうなるでしょうか?この答えになる文献をいくつか紹介します。

 

Horrow JC, Li W, Blobner M, et al.

Actual versus ideal body weight dosing of sugammadex in morbidly obese patients offers faster reversal of rocuronium- or vecuronium-induced deep or moderate neuromuscular block: a randomized clinical trial.

BMC Anesthesiol 2021; 21: 62

BMI>40kg/m2の高度肥満患者で、実体重あるいは理想体重換算でスガマデクスを投与した結果、図のような筋弛緩からの回復推移を示しました。実体重換算量では平均3.8分でTOF比は90%に達し、通常どおり迅速な回復が得られていますが、理想体重換算量では、平均7.5分を要しています。われわれが行った研究結果でも、スガマデクス量不足の場合には、5分以上経過してもTOF比>90%に達しないことがわかっています。Horrowらの研究では、TOF回復後の再クラーレ化も生じていますので、やはり理想体重換算量は過少投与であり、危険な投与法と判断されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Horrow JC, et al. BMC Anesthesiol 2021; 21: 62

 

 

Llaurado S, Sabate A, Ferreres E, et al.

Sugammadex ideal body weight dose adjusted by level of neuromuscular blockade in laparoscopic bariatric surgery.

Anesthesiology 2012; 117: 93-8

やはり高度肥満の患者で、理想体重換算量のスガマデクスを投与したのちに、筋弛緩からの回復が不十分でスガマデクスの再投与を要した率を検討した結果、deep blockからの回復時には39.5%、moderate blockからの回復でも23.4%と高率を示しています。この結果からも理想体重換算は危険であることがわかります。肥満患者でも、スガマデクスは実体重換算で投与してください。

 

それでは理想体重換算量をベースに何%量加算すれば、適切な拮抗ができるか調べた論文があります。

Van Lancker P, Dillemans B, Bogaert T, et al. Ideal versus corrected body weightfor dosage of sugammadex in morbidly obese patients.

Anaesthesia 2011; 66: 721-5

これによると、理想体重換算量+40%量であれば、実体重換算量を投与した場合と有意差のない確実な拮抗が得られるということでした。しかし、...

 

次のようなケースレポートがあります。

Le Corre F, Nejmeddine S, Fatahine C, et al.

Recurarization after sugammadex reversal in an obese patient.

Can J Anesth 2011; 58: 944-7

54歳、女性、体重 115㎏(理想体重 52.2㎏)、身長 154㎝、BMI 48㎏/m2

TOFカウント 2 で、スガマデクスを 200㎎(理想体重量+90%)投与

5分後に TOF比>0.9 しかし20分後に呼吸数減少、TOF刺激でTOFカウント 1に

スガマデクス 200㎎ 追加投与にて、3分後に TOF比>0.9に回復

つまり、先の報告の理想体重量+40%量では不足ということになります。やはり肥満患者におけるスガマデクスは実体重換算が必須です。

 

理想体重換算の問題点は、同じ体重でも、身長が異なれば、理想体重が違ってくるということです。気を付けましょう!