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第33回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

今回は無痛分娩に関する話題についてご紹介します。

硬膜外鎮痛にかかわる母体の発熱と、児の長期的予後として自閉症スペクトラム障害との関連についてです。

 

まずは発熱に関するメタアナリシスの結果をご紹介します。

Cartledge A, Hind D, Bradburn M, et al. Intervention for the prevention or treatment of epidural-related maternal fever: a systematic review and meta-analysis. Br J Anaesth 2022; 129: 567-80

分娩時の硬膜外鎮痛は安全な手技として確立されており、米国では70%以上の妊婦がその恩恵を受けている一方、副作用として15-25%の妊婦では発熱が生じると報告されています。この硬膜外鎮痛に関連する発熱は、1989年にLancet誌への掲載論文にて初めて認識されたようです。分娩中の発熱は新生児の脳損傷と関連するため問題視されていますが、対策を講ずるにも、発熱の機序について解明されていないため解決されていないのが現状です。推定されている機序としては、硬膜外ブロックによる交感神経遮断による体温調節機能障害や皮膚からの熱放散抑制、局所麻酔薬の持続注入による向炎症性サイトカイン(IL-6など)の増加を介する無菌性炎症などが挙げられています。推定機序への対応策として、局所麻酔薬を持続投与ではなく間欠投与にすること、局所麻酔薬投与量を減量すること、予防的ステロイド投与、予防的アセトアミノフェン投与などが検討されていますが、有効な方法としてエビデンスが認められているのは、局所麻酔薬の減量、他の鎮痛方法(麻薬による鎮痛)への変更、ステロイドの大量投与のみとのことです。機序の解明と有効な予防法確立には、さらなる研究が必要であることは間違いありません。

 

自閉症スペクトラム障害との関連の有無についての話題です。

Qiu C, Lin JC, Shi JM, et al. Association between epidural analgesia during labor and risk of autism spectrum disorders in offspring. JAMA Pediatrics 2020; 174: 1168-75

分娩時の硬膜外鎮痛(labor epidural analgesia: LEA)の母体鎮痛における有効性と新生児への安全性は確立されているものの、新生児の長期的影響についてはほとんど明らかにされていないようです。動物研究においては、臨床使用量の局所麻酔薬が神経毒性作用を呈し、行動発達に影響を及ぼすことが示されています。この論文では、経腟分娩時のLEAが長期的に子供のASD発症に関連するかを評価したものです。結果として、147895人の対象児のうち、109719人(74.2%)でLEAが実施されており、LEA群でのASD発症率は1.9%、非LEA群では1.3%で、多数の交絡因子を調整すると、LEA群でのASD発症ハザード比は1.37となり、かつLEAの持続時間とともにそのハザード比は増加しています(4時間未満:1.33、4-8時間:1.35、8時間以上:1.46)。この結果からすると、LEAは長期的にASDの発症に関連しており、LEA時間と正の相関をすると判断されます。

 

Qiu C, Carter SA, Lin JC, et al. Association of labor epidural analgesia, oxytocin exposure, and risk of autism spectrum disorders in children. JAMA Network Open 2023; 6: e2324630

先の論文と同じ著者によるものですが、ASD発症に及ぼすLEAとオキシトシン投与の相互作用を示唆するレポートです。普通分娩でオキシトシンの投与を受けていない群を対照にしたハザード比ですが、オキシトシン投与のみを受けた群では0.98、LEAのみを受けた群は1.25、LEAとオキシトシン投与を両方受けた群では1.48と大きくなっています。それぞれの群の経時的累積ASD発症率のグラフを下に引用しました。オキシトシンの相互作用機序については不明ですが、下垂体ホルモンでもあり、中枢性機序が関与しているのでしょうか?

 

LEDとASDの関連性を示す報告がある一方で、関連がないとする結果も複数出ています。

Ren T, Zhang J, Yu Y, et al. Association of labour epidural analgesia with neurodevelopmental disorders in offspring: a Danish population-based cohort study. Br J Anaesth 2022; 128: 513-21

デンマークのmedical birth registerから624952名(no LEA: 508656名、LEA: 116296名)の出生児を抽出した大規模スタディの結果ですが、HRは1.03と関連性は認められませんでした。前述の論文で認められていたLEA持続時間との関係性も、ここでは認められませんでした(HR <4時間:1.1、4-8時間:1.09、>8時間:0.99)。

 

Hanley GE, Bickford C, Ip A, et al. Association of epidural analgesia during labor and delivery with autism spectrum disorder in offspring. JAMA 2021; 326:1178-85

カナダでの検討、対象児388254名

LEDでの発症率 1.53%(1710/111480名)

No LEDでの発症率 1.26%(3482/276774名)

Adjusted HR 1.09 で関連性なし

 

Mikkelsen Ap, Greiber IK, Scheller NM, et al. Association of labor epidural analgesia with autism spectrum disorder in children. JAMA 2021; 326: 1170-7

デンマークでの検討、対象児479178名 ASD総発症率 1.3%

Adjusted HR 1.05 で関連性なし

 

Wall-Wieler E, Bateman BT, Hanlon-Dearman A, et al. Association of epidural labor analgesia with offspring risk of autism spectrum disorders. JAMA Pediatrics 2021; 175: 698-705

カナダでの検討 対象児 123175名 ASD総発症率 1.8%

Adjusted HR 1.08 で関連性なし

 

Butwick A, Abrams DA, Wong CA. Epidural labour analgesia and autism spectrum disorder: is current evidence sufficient to dismiss an association? Br J Anaesth 2022; 128: 393-8

以上の関連性なしとした複数の報告をもとに、BJAのeditorialでは、LEDとASDの関連性はないと結論付けています。

 

因みに関連するデータとして、最近報告されたヒトでの観察研究では、全身麻酔下に実施された帝王切開では、通常の経腟分娩と比べ、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder: ASD)の発症率が約50%増加するとの結果がでています。

Samuel MH, MeiriG, Dinstein I, et al. Exposure to general anesthesia may contribute to the association between cesarean delivery and autism spectrum disorder. J Autism Dev Disord 2019; 49: 3127-35

全身麻酔薬への早期暴露は、児の発達に影響を与えるのでしょうか?さらなる結果を待たねばなりません。