第35回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble
筋弛緩薬を安全に使用するための周術期筋弛緩管理ガイドラインは各国で作成されていますが、規模の大きい欧州麻酔集中治療学会および米国麻酔学会でも作成され、それぞれEJA、Anesthesiology誌に掲載されました。推奨内容はほぼ同様で、患者安全にとって非常に有用なものですが、いかに多くの麻酔科医に理解させ、ガイドライン遵守率を上げるかが重要と思われます。当科ではすでに実施している内容になりますが、再確認しておきましょう!
Fuchs-Buder T, Romero CS, Lewald H, et al. Peri-operative management of neuromuscular blockade. A guideline from the European Society of Anaesthesiology and Intensive Care. Eur J Anesthesiol 2023; 40: 82-94
欧州麻酔集中治療学会のガイドラインの中では、エビデンスに基づき8つの推奨が提言されています。気管挿管時の患者安全にも配慮されているのが特徴ですが、とくにR6-8を遵守すれば残存筋弛緩を回避できるはずです。諸外国はシスアトラクリウムやミバクリウムといったベンジルイソキノリンも使用されています。スガマデクスでは拮抗できないため、ネオスチグミンも使われており、その際の注意点も記載されています。
R1:気管挿管時には筋弛緩薬の投与を推奨する。
R2:気管挿管時の咽頭・喉頭損傷を減らすために筋弛緩薬の投与を推奨する
R3:迅速気管挿管には、スキサメトニウム1㎎/㎏あるいはロクロニウム0.9-1.2㎎/㎏のような速効型筋弛緩薬の投与を推奨する。
R4:手術環境を改善する必要があれば、筋弛緩状態を深くすることを推奨する。
R5:深部筋弛緩が術後痛を軽減し、周術期合併症の発生頻度を減らすというエビデンスは不十分である。
R6:残存筋弛緩を回避するには、尺骨神経刺激による母指内転筋の客観的筋弛緩モニタリングを推奨する。
R7:ステロイド型筋弛緩薬(ロクロニウムとベクロニウム)による深部、中等度および浅い筋弛緩状態の拮抗にはスガマデクスの投与を推奨する。
R8:ネオスチグミンによる拮抗前に、四連反応(train-of-four: TOF)比>0.2の自然回復を得ること、投与後もTOF比≧0.9に回復するまで客観的筋弛緩モニタリングを継続することを推奨する。
Thilen SR, Weigel WA, Todd MM, et al. 2023 American Society of Anesthesiologists practice guidelines for monitoring and antagonism of neuromuscular blockade: A report by the American Society of Anesthesiologists task force on neuromuscular blockade. Anesthesiology 2023; 138: 13-41
つぎに米国麻酔学会から発行された筋弛緩モニタリングと筋弛緩拮抗に関するガイドラインの推奨項目を紹介します。患者安全上、最も重要である残存筋弛緩の回避に特化した内容になっています。
R1:筋弛緩薬を投与した際に残存筋弛緩を回避するためには、感受性の低い臨床指標のみの評価に頼らないことを推奨する。
R2:残存筋弛緩を回避するには、主観的評価よりも客観的モニタリングを推奨する。
R3:客観的モニタリング時には、抜管前にTOF比≧0.9を確認することを推奨する。
R4:筋弛緩モニタリングには母指内転筋を用いることを推奨する。
R5:筋弛緩モニタリングには眼筋群を用いないことを推奨する。
R6:ロクロニウムとベクロニウムによる深部、中等度および浅い筋弛緩状態の拮抗には、残存筋弛緩を回避するためにネオスチグミンよりもスガマデクスの投与を推奨する。
R7:非常に浅い筋弛緩状態では、スガマデクスの代わりにネオスチグミンを用いることも提案される。
R8:アトラクリウムやシスアトラクリウムが主観的モニタリング下に投与されている場合、残存筋弛緩を回避するためには非常に浅い筋弛緩状態でネオスチグミンにより拮抗することを提言する。客観的モニタリングをできない状況では、少なくとも拮抗から10分以上経過後に抜管すべきである。客観的モニタリングが使用可能な状況であれば、TOF比≧0.9を確認次第、抜管できる。