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第37回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

今回は麻酔中に生ずるアナフィラキシーの原因薬物について話題にします。筋弛緩薬が被疑薬第1位であることは、皆さんご存知のとおりです。その詳細について、またその推移についてご紹介します。紹介する論文は、

Tacquard C, Serrier J, Viville S, et al. Epidemiology of perioperative anaphylaxis in France in 2017-2018: the 11th GERAP survey. Br J Anaesth 2024; 132: 1230-7

です。フランスは以前よりアナフィラキシーに関する調査を行っており、今回の報告が11回目になります。もともと報告体制がとられているのか発症頻度も高く、データの信頼性も高いと思います。フランスは有名な化粧品も多く存在し、使用頻度も高いために、それにより感作されているケースが多いのでは?との憶測も以前は取りざたされていました。GERAPとはGroupe d’Etude des Réactions Anaphylactiques Périopératoriesの頭文字をとっていますが、フランス語で周術期アナフィラキシー検討グループのことだと思います。第10回の結果は、2011年、2012年の集計として、

Tacquard C, Collange O, Gomis P, et al. Anaesthetic hypersensitivity reactions in France between 2011 and 2012: the 10th GERAP epidemiologic survey. Acta Anaesthesiol Scand 2017; 61: 290-9

に掲載されていますが、その結果と比較しながら推移を見てみましょう。

 

原因薬の頻度ですが、

 上位4位までは順位は変わらずです。おおよそ60%は筋弛緩薬が原因です。ラテックスは以前には筋弛緩薬に次いで多かったのですが、ラテックスの使用が控えられるようになって激減しています。

 

筋弛緩薬の内訳ですが、スキサメトニウムが大半を占め、アトラクリウム、ロクロニウムが続きます。他の国の報告では、ロクロニウムが1位、スキサメトニウムが2位という結果になっているものもあり、各国の筋弛緩薬のマーケットシェアにも影響されていると考えられます。

 

10万バイアル販売あたりのアナフィラキシー発症数を見てみると、おおよその各病院の全身麻酔数に対する発症件数が予測できそうです。やはりスキサメトニウムとロクロニウムが1位・2位を占めています。

 

抗原となる4級アンモニウムは、すべての筋弛緩薬が有している構造です。ですから cross-reactivity、交差性は高いと考えなくてはいけません。交差性の比率です。

この表の見方ですが、左列が原因薬で、上列の各筋弛緩薬との交差性が認められた率を表しています。

ロクロニウムが原因のアナフィラキシーを起こした場合、スキサメトニウムで42%、アトラクリウムで9%、シスアトラクリウムで12%、ミバクリウムで9%の交差性が認められるということになります。

ロクロニウムとスキサメトニウムの交差性が目立つとともに、本邦では使用していないベンジルイソキノリン間の交差性の強さがわかります。

 

周術期アナフィラキシーの原因2位の抗菌薬ですが、セファゾリンが50%以上を占めています。使用頻度が高いことも影響しているのでしょう。10万バイアル当たりの発症数は0.7と、スキサメトニウムやロクロニウムに比較すると低値ですが、発症原因薬として注意が必要ですね。

 

筋弛緩薬分子中の4級アンモニウム部分が抗原となり得るのですが、手術以前に何らかの薬物や環境因子、食物、化粧品、産業用原料などに含まれる4級アンモニウムによりすでに感作されていることが推定されます。先ほど述べたように、フランスでの4級アンモニウムを含む化粧品との関連は有名なところです。最近では、事前の感作の原因として咳止め薬である pholcodine(欧州で使用されている鎮痛作用を持たないオピオイドの一種、日本ではオピオイド鎮痛薬のコデインが使われています)が大きく関連していることが、やはりフランスの最近の調査で分かっています。

Mertes PM, Petitpain N, Tacquard C, et al. Pholcodine exposure increases the risk of perioperative anaphylaxis to neuromuscular blocking agents: the ALPHO case-control study. Br J Anaesth 2023; 131: 150-8

pholcodineの使用歴がある方は、周術期の筋弛緩薬によるアナフィラキシーの頻度が4倍に昇ることがわかったのです。このpholcodineが含まれた薬はこの調査結果が公表されて以後、販売中止となっています。