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第42回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 今回は、プロトロンビン複合体製剤(Prothrombin Complex Concentrate: PCC)の心臓手術後出血に対する効果についての論文を紹介します。本邦ではPCCとしてケイセントラ®が発売されていますが、その適応は「ビタミンK拮抗薬投与中(ワルファリン投与中の患者での想定)の患者における急性重篤出血時、または重大な出血が予想される緊急手術・処置時の出血傾向の抑制」に限定されています。保険適用を鑑みると、本邦ではワルファリン服用患者の緊急手術には使用を考慮することになるでしょう。これは血液凝固因子中の第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子、プロテインCおよびSを含む製剤であり、大量出血時、凝固因子欠乏性出血には効果が期待できると考えられます。実際、後ろ向き研究では輸血の必要性や出血量の低減効果が確認されており、前向き無作為研究結果の結果が待たれていました。その結果についていくつかご紹介します。

 

Smith MM, Schroeder DR, Nelson JA, et al. Prothrombin complex concentrate vs plasma for post–cardiopulmonary bypass coagulopathy and bleeding. A randomized clinical trial. JAMA Surgery 2022; 157: 757-64

 心臓外科手術センター一施設における前向き無作為化臨床試験で、対象は18歳以上のCPBを伴う心臓手術患者、最終的な解析対象100名の結果です。出血が過剰となり、プロトロンビン時間(PT)>16.6秒、PT-INR>1.6を呈した患者が、PCC(n=51)またはFFP(n=49)のいずれかの投与群に割り付けられ、PCCの投与量は15 IU/kg、FFPは10-15mL/kgを推奨量としています。なお血小板減少(102×103/μL)時は血小板輸血、フィブリノゲン減少(144 mg/dL)時にはクリオプレシピテートが投与されています。

 結果ですが、術中赤血球輸血を受けた患者の割合は、PCC群で13.7%、FFP群で30.6%と有意差が認められています。術後の胸腔ドレーン排出量には群間差は認められませんでしたが(中央値:1022mL vs 937mL)、PCC群ではPT(−1.37秒)およびINR(−0.12)の改善値が有意に大きくなりました。PCC群51例中7例(13.7%)は術中から術後1日目終了時まで同種輸血を回避できましたが、FFP群では回避例はゼロでした。有害事象に有意差はありません。

 つまり本研究では、PCCとFFPが同様な安全性と有効性を示すものの、PCC投与患者では術後赤血球輸血が少なく、PT/PT-INRが改善され、同種輸血回避の可能性が高いことを示唆しています。

 

Karkouti K, Bartoszko J, Grewal D, et al. Comparison of 4-factor prothrombin complex concentrate with frozen plasma for management of hemorrhage during and after cardiac surgery. A randomized pilot trial. JAMA Network Open 2021; 4: e213936

 カナダの2病院で実施された無作為化研究で、心臓手術中の出血に対して、PCC(体重60kgの患者には1500 IU、体重60kg超の患者には2000 IU)またはFFP(体重60kgの患者には3U、体重60kg超の患者には4U)を投与し、必要に応じて24時間以内に1回、両群ともにFFPを投与しています。

 計101名、PCC 群54名、FFP群 47名が解析対象です。PCC群では80%、FP群では68%の患者が4時間時点で止血療法を必要とせず(P=0.25)、同様に、PCC群では76%、FP群では66%の患者が24時間時点で止血療法を必要としませんでした(P=0.28)。ただし24時間累積同種輸血(赤血球、血小板、FFP)の単位数中央値は、PCC群で6.0 U(IQR、4.0-11.0U)、FP群で14.0 U(IQR、8.0-20.0U)と有意差が認められており(P<.001)、赤血球単独では、PCC群の中央値は1.5 U、FFP群は3.0 U(P = 0.05)です。

 結論としては、心臓手術における出血抑制のため、PCCがFFPの適切な代替となるかもしれないが、十分な検出力を持つランダム化臨床試験が必要であるとの判断でした。この結果を踏まえて、凝固性出血を呈する心臓外科手術患者におけるPCCとFFPの有効性と安全性を比較するため、同グループが次の研究を実施しました。

 

Karkouti K, Callum JL, Bartoszko J, et al. Prothrombin complex concentrate vs frozen plasma for coagulopathic bleeding in cardiac surgery The FARES-II multicenter randomized clinical trial. JAMA 2025; 333: 1781-92

 265名の患者がPCC投与群(1500 IU/60kg、2000 IU/>60kg)に、263名がFFP群(3U/60kg、4U/>60kg)に無作為に割り付けられています。必要に応じ、24時間以内に2回目の投与が許可され、その後はFFPのみを使用可能としています。主要評価項目は止血反応で、治療開始後60分から24時間までに止血介入が不要であった場合を有効と定義しています。副次的評価項目は同種輸血および有害事象とし、術後30日目まで追跡調査しています。

 登録患者538例のうち、420例が主要解析対象となっています。FFP群(207例)と比較して、PCC群(213例)は止血効果が高く(60.4% vs 77.9%、P < 0.001)、赤血球、血小板、FFPを含む輸血量が少なくなっています(9.3単位 vs 6.6単位, P = 0.002)。PCC群では36.2%、FFP群では47.3%が、術後死や血栓症、脳梗塞など重篤な有害事象を発症していますが(相対リスク:0.76、P =0 .02)、とくに急性腎障害に関しては、FFP群の 18.8%に比し、PCC 群では 10.3%と低減していました(相対リスク:0.55、P = 0.02)。

 結論として、心臓手術中の出血で凝固因子補充を必要とする患者において、PCCはFFPよりも優れた止血効果と安全性を示しました。

 

適応を考慮して使用すれば、有効性は高そうですね。