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第45回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 医局員の皆さん、本年もよろしくお願いいたします。今年最初のBibble-Babbleは、「glymphatic system」についての情報共有です。このシステムの詳細をご存知でしょうか?

 各臓器で不要になった老廃物の排出は、全身のリンパ系が担っています。しかし中枢神経系にはこのリンパ管は、解剖学的に検索しても存在していません。それでは脳で産生された老廃物は、一方的に蓄積されてしまうのでしょうか?いいえ、中枢神経系でこの老廃物の除去を担うのがglymphatic systemなのです。Glymphaticとは造語で、glia(グリア)とlymphatic system(リンパ系)が合わさった言葉になっていますが、グリア細胞の関与が非常に重要なリンパ系と似た働きをするシステムという意味合いになっています。下図に示されているように、動脈の血管周囲腔に流れた脳脊髄液が、血管拍動によるbulk flowにより脳間質に侵入することで、老廃物を含んだ間質液と混じりながら静脈周囲腔から脳外へ流出するというフローで説明されています。血管周囲腔にはアストロサイトの終足が分布しており、そこに存在する水チャネルタンパク質のアクアポリン‐4によってこのシステムは加速されます。

 

Goldman N, Hablitz LM, Mori Y, Nedergaard M. The Glymphatic System and Pain. Med Acupunct. 2020 Dec 1;32(6):373-376.

 

 中枢神経内での老廃物にはアミロイドβなどを含んでいるため、加齢や動脈硬化などによるglymphatic systemの機能不全の結果、アミロイドβの蓄積、アルツハイマー病発症という関連も示唆されています。またペインクリニックに関係することとして、痛みによるシステム不全やそれが痛みの増悪因子となる悪循環のメカニズムについても調査されています。

 このシステムは主に睡眠中に活性化され、クリアランスは覚醒時の倍になるとのことですが、覚醒物質であるノルエピネフリンの作用が消退することが関連しているようです。そこで麻酔薬のglymphatic systemへの作用は?という疑問が出てくると思います。麻酔薬は全般に睡眠をもたらすことで、glymphatic systemは活性化されますが、とくに中枢神経内でノルエピネフリンの放出を抑制するデクスメデトミジンの効果が気になるところです。デクスメデトミジンは主に脳内の青斑核に分布するα2A受容体を刺激し、ノルエピネフリンの遊離を抑制することで、大脳皮質などの上位中枢の興奮を抑え、鎮静作用を発揮します。よってglymphatic systemをより活性化する作用を持ち合わせています。以下の文献の結果をご紹介します。

 

Benveniste H, Lee H, Ding F, et al. Anesthesia with dexmedetomidine and low-dose isoflurane increases solute transport via the glymphatic pathway in rat brain when compared with high-dose isoflurane. Anesthesiology 2017;127: 976-988

 

 ラットをイソフルラン1.5-2.2%で麻酔する群と、低濃度(0.4-0.8%)のイソフルランとデクスメデトミジン腹腔内投与で麻酔する群に分け、大槽内に留置したカテーテルから造影剤を注入し、MRIにて経時的にglymphatic transportを計測しています。その結果のグラフですが、赤のイソフルラン麻酔に比較して、青のデクスメデトミジンを併用した群で有意にtransportが増加しているのがわかります。

 

 

 またもうひとつのグラフは海馬での測定結果ですが、Aは同様にtransportの経時的推移を、Bはクリアランスを呈示していますが、明らかにデクスメデトミジン併用群で増強されています。

 

 

 つまり睡眠・覚醒のサイクルだけがglymphatic systemの活性に影響しているわけではなく、ノルエピネフリンなどの他因子も関連していることが示されています。

 術後せん妄も麻酔科医にとっては悩みの種で、高齢者では麻酔からの覚醒時やICU、病棟での術後管理中にその発生が気になるところです。やはり皆さん感じているように高齢者で多いのですが、術後30日内死亡率が10%近く上昇するとなると何とか回避したいと思うのですが、対策をしても完全に予防できるわけではないのが難しいところです。手術侵襲自体が認知機能を悪化させますが、glymphatic systemとの関連性を示した論文を紹介します。

 

Chen K, Du X, Chao MA, et al. Surgery impairs glymphatic activity and cognitive function in aged mice. Mol Brain 2025; 18: 7

 

 adult mouseとaged mouseにイソフルラン麻酔下に開腹術を施行し、その際のglymphatic systemの推移をみています。下のグラフの緑色がadult mouse、ピンクがaged mouseでの結果ですが、adult mouseでは手術未施行(sham)と変わりのない推移を示していますが、aged mouseでは手術により有意に造影剤の流出遅滞、つまりglymphatic systemの機能低下が認められています。その下のグラフは認知機能を測るT字型迷路テストの結果です。このテストはT字の形状をした迷路で、T字の下端からマウスが分岐点まで移動し、左右どちらの方向に侵入するかを観察します。通常、どちらかの方向の先端に餌が置いてあり、餌のある方に入れば正解とカウントします。その結果が下図dで、緑のadult mouseでは手術侵襲が加わっても認知機能は保たれていますが、ピンクのaged mouseでは有意に低下しています。図eでは横軸のglymphatic systemと縦軸の認知機能間の正の相関が認められています。つまり加齢によりglymphatic systemへの手術侵襲の影響が顕著になり、glymphatic systemの機能低下が術後の認知機能に影響する可能性があることを示唆しています。

 

 

 デクスメデトミジンが術後せん妄の発現率を抑えるという論文(DuanX, Coburn M, Rossaint R, et al. Efficacy of perioperative dexmedetomidine on postoperative delirium: systematic review and meta-analysis with trial sequential analysis of randomised controlled trials. Br J Anaesth 2018; 121: 384-97)もありますが、glymphatic systemの維持に起因する可能性も検討する必要がありそうですね。さらなる結果を期待しましょう!