第49回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble
2024年度第63回麻酔科専門医試験問題の複雑性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome: CRPS)に関する問題です。ペインクリニック研修で学んでますよね!まずは解いてみましょう。問題文は簡略化してあります。
【63B5】65歳の女性。右橈骨遠位端骨折の診断で骨接合術後、ギプス固定、手術翌日から右手に浮腫。さらに発赤や持続痛が出現し、ペインクリニック紹介。治療として正しいのはどれか。3つ選べ。
A ギプス固定を緩める。
B ビスホスホネート製剤が有効である。
C 胸部交感神経節ブロックは無効である。
D リハビリテーションは疼痛のため実施しない。
E 局所静脈内ステロイド注入は浮腫を軽減させる。
簡単な問題ですが、CRPSに関する基本的知識を増やしておきましょう。CRPSと疾患名が統一される以前は、反射性交感神経性萎縮症、交感神経依存性疼痛、カウザルギー、Sudeck’s atrophyなどの名称が使用されていました。現在は、CRPSⅠ型(明らかな神経障害のないもの、痛みや知覚異常が神経領域に限定されない)、CRPSⅡ型(神経障害があるもの、ある神経領域の脱落症状がある)に分類されています。外傷(骨折や捻挫)や手術、四肢の不動化を契機に、その契機には不釣り合いなほどの強度の痛みが持続し、知覚障害、自律神経障害、発汗運動障害、栄養障害、運動障害を伴うようになります。性差として女性に多いのが特徴です。四肢の栄養障害や運動障害に陥ると、元の職業に復帰できない確率が高いため、迅速な診断と適切な治療が必要になります。診断のためには診断基準が重要ですが、世界的には国際疼痛学会のBudapest criteriaが使用されており、円滑な診療のためにはカテゴリーの4つの症状を覚えておく必要があります。
A 契機に不釣り合いない持続痛
B 患者の訴えが、下記の4つのカテゴリーのうち少なくとも3つ以上に合致(カテゴリー中、少なくとも1つ以上の症状があり)
C 診察にて、4つのカテゴリーのうち少なくとも2つ以上に合致(カテゴリー中、少なくとも1つ以上の症状があり)
D 症状やサインから他疾患が説明できない。
カテゴリー
1 知覚: a アロディニア b 痛覚過敏
2 血管運動: a 皮膚温左右差 b 皮膚色変化 c 皮膚色左右差
3 浮腫・発汗: a 浮腫 b 発汗異常 c 発汗左右差
4 運動・栄養: a 可動域減少 b 運動障害(筋力低下、振戦、ジストニア) c 栄養障害(毛、爪、皮膚)
カテゴリーに含まれている症状は、CRPSのメカニズムを想起できれば難しくはありません。まず外傷等を契機に、その部位に末梢性の炎症が生じます。炎症性細胞が集積し、放出されたケミカルメディエータが侵害受容器を刺激します。侵害受容器の興奮は知覚神経を上行するとともに、分枝部分で末梢側にも下行し、神経末端から血管拡張物質であるサブスタンスPやCGRPを放出します。これが末梢血管を拡張させ、浮腫、つまりは神経原性炎症の原因となります。炎症の維持により持続的に侵害受容器が刺激されることで、受容器が小さな刺激によっても過剰に反応するようになります。これが末梢性感作です。末梢性感作により、脊髄後角において放出されたグルタミン酸やサブスタンスPなどがNMDA受容体やNK受容体を継続的に活性化することで、ワインドアップ現象(脊髄後角の電気反応が刺激ごとに増強していく反応)を代表とする中枢性感作が生じます。そうなるとアロディニアや痛覚過敏、痛みの領域を超えた異常知覚が生じるようになります。反射性交感神経萎縮症と呼称されていたことからもわかりますが、発症後、疼痛側肢の血中ではノルエピネフリン濃度が下がるので、血管は拡張し、発赤や浮腫、発汗異常が生じます。これは初期のwarm phaseで、その後、患側肢皮下のα受容体がアップレギュレーションすることで血管収縮、血流が低下し、栄養障害や低酸素が生じ、慢性期であるcold phaseでは皮膚色は青白くなり、筋や骨萎縮により運動可動域は狭まります。脳の運動野などの活性増加、神経可塑性により、運動機能抑制、振戦やジストニアなどの異常運動をきたすと考えられています。慢性痛となれば、下行性疼痛抑制機序の減弱や心理社会的因子も作用してきますので、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛すべての機序が関与することになります。このようにメカニズムを想起できれば、カテゴリー症状も容易に理解できますね!一歩進んで、CRPSの病因として遺伝的素因の関与が示唆されています。ヒト白血球抗原(HLA)、とくにHLA-B62およびHLA-DQ8はジストニアを伴うCRPSと関連しているようです。これらのアレルは自己免疫メカニズムがCRPSの病態形成に寄与する可能性があります。さらに、CRPS患者では健常者と比較してマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)遺伝子の発現が有意に上昇しており、病状進行に関与している可能性があります。
治療は非常に難渋しますが、薬物療法としてNSAIDs、ステロイド、ガバペンチンなどのカルシウム拮抗薬、カルバマゼピン、三環形抗うつ薬、SNRI、オピオイド、NMDA拮抗薬、αアドレナリン受容体作動薬&拮抗薬など多数ありますが、骨粗しょう症治療薬であるビスホスホネートも有効性が確認されています。本来、破骨細胞を抑制する機序を有しますが、CRPSでどのように効果を表すのか推測の域を出ませんが、炎症性メディエーターの減少に関与する可能性があります。副作用として、顎骨壊死がよく知られていますよね。歯科治療時には休薬が必要です。
臨床的には星状神経節ブロック、静脈内局所交感神経ブロック、硬膜外ブロック、胸部交感神経節および腰部交感神経節ブロックなどの交感神経ブロックも初期には多用されますが、その有効性はシステマティックな評価は十分になされていません。
リハビリテーションはCRPSの主要な治療選択肢で、疼痛軽減と機能回復に有用です。
問題の解答は、A、B、Eです。

