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第51回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

 2024年度第63回麻酔科専門医試験問題の63A20です。今回は局所麻酔薬中毒(Local Anesthetic Systemic Toxicity: LAST)に関する問題です!LASTの発症頻度は、神経刺激装置を用いた神経ブロックでは1/1000件、超音波ガイド下では1/1600件と報告されています(Barrington MJ, et al. Ultrasound guidance reduces the risk of local anesthetic systemic toxicity following peripheral nerve blockade. Reg Anesth Pain Med 2013; 38: 289-99)。この報告は少し古いのですが、2007-2012年にオーストラリアとニュージーランドで行われた多施設研究の結果です。超音波ガイド下で発生が減少することを示したものですが、この当時よりも、ロピバカインやレボブピバカインといった心毒性を減じた左旋性局所麻酔薬の導入、エコー機器やテクニックの進歩した現在では、さらに発生率は減少していることが推測されます。私はこれまでペインクリニックに関連したLASTを数件見てきましたが、とくに星状神経節ブロック(SGB)では内頚動脈に局麻が少しでも注入された場合、急な痙攣から始まりますので、壁をバタバタたたく音(患者さんの手が痙攣で壁に当たる音です)が処置室内に響くと、「LASTだ!」と皆が集まって、マスクバッグ換気やジアゼパムの静注、血圧測定などに対応した記憶があります。一方、椎骨動脈に注入された場合には、閉じ込め症候群と呼ばれる反応消失、失語、無呼吸、麻痺などの抑制症状が生じることもあります。SGBの際のようにCNS内の局麻濃度が急激に上昇した結果、痙攣期から発現する場合もありますが、局麻薬の過量投与で徐々に血中濃度が上がる場合には、数分後より初期症状としてCNSの刺激症状、口周囲のしびれ、耳鳴、頭痛、めまい、多弁などが始まり、それを放置すると痙攣期、虚脱期(無呼吸、徐脈、低血圧)と進行します。初期症状を見逃さずに、痙攣が生じる前にジアゼパムやミダゾラム、プロポフォールの投与が必要です。

まずは下記の問題を解いてみてください。

 

【63A34】LASTを促進する因子はどれか。3つ選べ。

A 肝障害

B 高心拍出量

C 低酸素血症

D アシドーシス

E タンパク結合分画の増加

 

 局所麻酔薬の基本構造ですが、ベンゼン環、中間鎖、アミンより構成されます。中間鎖の構造により、エステル型(コカイン、プロカインなど)とアミド型(リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカインなど)に分類されます。エステル型は血中の偽性コリンエステラーゼで分解されますが、アミド型は肝臓にて代謝されます。ですので、エステル型は異型コリンエステラーゼ血症患者で代謝が遅延しますし、アミド型は肝障害や循環障害の患者では血中濃度の減少が遅れます。つまり肝障害低心拍出量の場合には、LASTが生じやすいことになります。

 低酸素血症呼吸性アシドーシスおよび代謝性アシドーシスはLASTを悪化させる要因として挙げられています。これらの因子はLAST発症前に患者が有している合併症というよりも、LASTの結果、痙攣や無呼吸が生じ、低酸素血症、呼吸性および代謝性アシドーシスが生じ、それによってLAST反応がさらに増強されるという続発症として捉えるべきでしょう。LASTの症例報告によると、いったん痙攣が生じるとバッグマスク換気ができていても、血液ガス分析上、PaO2は最低で33Torr、pHは6.99まで下がり、PaCO2は76Torrまで増加していました(Moore DC, et al. Severe hypoxia and acidosis following local anesthetic-induced convulsions. Anesthesiology 1980; 53: 259-60)。それぞれの因子の関与について、動物実験の結果ですが、10%程度の低濃度酸素をブタに吸入させ、重篤な低酸素血症(PaO2<40Torr)下にブピバカインを静注すると、EEGにて痙攣波、ECGにて不整脈が生じやすくなることが報告されています(Heavner JE, et al. Severe hypoxia enhances central nervous system and cardiovascular toxicity of bupivacaine in lightly anesthetized pigs. Anesthesiology 1992; 77: 142-7)。また呼吸性アシドーシスの場合、増加したPaCO2は脳血流量を増加させ、局麻薬のCNSへのデリバリーを増やすことに繋がります。加えてリドカインのタンパク結合率を測定した研究では、pH7.6では70%あったものが、CO2負荷によりpH7.0にすると50%に減少することが示されています(Burney RG, et al. Effects of pH on protein binding of lidocaine. Anesth Analg 1978; 57: 478-80)。同様に代謝性の乳酸アシドーシス下でも、局麻薬の蛋白結合からの解離、つまりフリーの局麻薬濃度が増加することが示されています(Coyle DE, et al. The influence of lactic acid on the serum protein binding of bupivacaine: Species differences. Anesthesiology 1984; 61: 127-33)。

正解はA、C、Dです。

 

 問題解説はこれで終わりですが、局所麻酔薬の作用について少しおさらいしておきましょう。

 局所麻酔薬は神経軸索の脂質膜を貫通後、神経内からNaチャネルを塞ぐことで、神経外からのNaイオンの流入、つまりは神経脱分極を抑制します。局麻薬は溶液中では本来の形である3級アミン構造(NR3:塩基型、非イオン型)の分子と4級アミン(NR4+:イオン型)分子が存在します。一般に局麻溶液は安定性を保つために弱酸性(≒pH6)になっていますので、バイアル中ではほとんどがイオン型です。これはHenderson-Hasselbalchの式 pH = pKa + log[塩基型]/[イオン型] より算出できます。ロピバカインやレボブピバカインの解離係数(pKa)は8.1ですので、式に当てはめると6=8.1+log[塩基型]/[イオン型]で、[塩基型]/[イオン型]=1/100となりますから、ほとんどがイオン型なのです。神経軸索の脂質膜を通るには脂溶性のある塩基型(非イオン型)でないといけません。注射されて組織のpH7.4に曝露されると、先の式から[塩基型]/[イオン型]=20%程度に塩基型が増加しますので、脂質膜を通りやすくなります。ただしpKa 7.7のメピバカイン、7.8のリドカインでは、組織中の[塩基型]/[イオン型]=40%程度ですから、こちらの方が作用発現は早いのです。作用発現を早めるために、長時間作用薬と中時間作用薬を混じたり、重炭酸ナトリウムを少量加えたりする方法もあります。pHが酸性に傾いている炎症部位への投与時には、局麻薬は効果を発揮しにくいことになりますので注意が必要です。