第55回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble
前回、オピオイドの項で解説しなかったトラマドールとメサドンについて紹介します。
トラマドールは弱オピオイドのひとつであり、経口薬の鎮痛効果はモルヒネの1/5(注射薬では1/10)、生体内利用率は約75%です。トラマドールの鎮痛機序は特徴的で、オピオイドとしての鎮痛効果と、ノルアドレナリン・セロトニン取り込み阻害薬(SNRI)としての鎮痛効果を持ち合わせます。中枢神経内でセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを抑制し、濃度を高めることで下行性疼痛抑制系を賦活し、鎮痛効果をもたらします。トラマドール自体はSNRI作用を有するのですが、肝臓でCYP2D6により代謝され、下図のようにその代謝物であるmono-O-demethyl-tramadol(M1)がμオピオイド作用を発揮します。M1はおもに腎排泄のため、腎機能障害患者では減量が必要となります。

使用時の注意点として、SNRI作用を有することから、抗うつ薬との併用に留意する必要があります。たとえば三環系抗うつ薬と併用した場合、CYP2D6を競合することで両薬の作用が遷延し、中枢神経内のセロトニンが過剰になるとセロトニン症候群が生じるリスクがあります。また選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と併用する場合も注意が必要で、パロキセチンなど一部のSSRIは強いCYP2D6阻害作用を有するため、トラマドールの作用遷延とともに、SSRI自体のセロトニン再取り込み抑制が相まってセロトニン症候群の可能性が高まります。


セロトニン症候群の症状: 興奮、発汗、散瞳、頻脈、自律神経失調(多くは高血圧)、腸蠕動亢進、下痢、クローヌス、振戦、反射亢進(下腿で顕著)

Boyer EW, Shannon M. N Engl J Med 2005;352:1112-20
メサドンは他の強オピオイドで治療困難ながん疼痛に適応となります。強オピオイドであるとともに、NMDA受容体拮抗作用(ケタミンと同様の作用機序)も有しています。オピオイドでは慢性投与時の耐性が問題となることがありますが、本薬ではこのNMDA受容体拮抗作用により耐性が生じにくいとも言われています。神経障害性疼痛に対して有効である症例も経験しますが、これにもNMDA受容体拮抗作用の関連が推測されます。生物学的利用能は約80%、Tmaxは5時間と服用後の血中濃度の上りがゆっくりです。肝代謝(CYP3A4やCYP2B6)で活性代謝物はありませんが、排泄半減期は15-40時間と非常に長く、かつ個体差が大きいため、少量からの慎重投与が必要になります。血中濃度が定常化するまでに日数を要するため、初回投与後および増量後、少なくとも7日間は増量を行わないよう添付文書に示されています。さらなる注意点として、QT延長症候群やtorsade de pointesなどの心室頻拍の原因になることを覚えておきましょう!
2017年度ペインクリニック専門医試験問題
12.トラマドールについて、正しいものを2つ選べ。
a.代謝産物に活性がある。
b.麻薬処方箋が必要である。
c.生体内利用率は約30%と低い。
d.κオピオイド受容体作動薬である。
e.セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する。
正答)a、e
2022年度ペインクリニック専門医試験問題
18.セロトニン症候群で特徴的な症状はどれか。2つ選べ。
a. 発熱
b. 便秘
c. 反射低下
d. 白血球増多
e. ミオクローヌス
正答)a、e
2024年度第63回麻酔科専門医試験問題
【63A71】メサドンについて正しいのはどれか。2つ選べ。
A 副作用にQT延長がある。
B NMDA受容体拮抗作用がある。
C 本邦では非がん性疼痛に使用できる。
D 本邦では麻薬取扱者免許証があれば処方できる。
E 投与量変更後、血中濃度は24時間以内に定常状態になる。
正答)A、B
2025年度ペインクリニック専門医試験問題
7.メサドンについて、正しいのはどれか。2つ選べ。
a. 消失半減期(t1/2)が短い。
b. がん性疼痛のみに適応がある。
c. 初回投与後7日間は増量しない。
d. レスキュー薬として使用される。
e. 主に肝臓でグルクロン酸抱合により代謝される。
正答)b、c

