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第56回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

最近は専門医試験の解説をしていましたが、久しぶりに文献を紹介します。皆さん臨床で、よく休薬指示をしているSGLT2阻害薬の話題です。当院でも術前3日の休薬と決められていますが、この是非についてです。

 

Haziri F, Durak K, Glarner N, et al. Perioperative discontinuation of SGLT2-inhibitors and cardiac complications after noncardiac surgery: secondary analysis of two prospective observational cohort studies. Br J Anaesth 2026; 137: 440-9

 

 ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor: SGLT2i)は、腎臓での糖再吸収を抑制し、尿中に糖を排泄させることで血糖を下げる2型糖尿病治療薬ですが、あわせて心不全の予防や腎保護作用を有しています。副作用である正常血糖型糖尿病性ケトアシドーシス(EDKA)を予防するため、主要な国際的な診療ガイドラインでは手術の3~4日前に休薬することを一貫して推奨しています。しかし心血管リスクの高い患者においてSGLT2iの投与を中止すると、心不全が悪化する可能性があります。本論文では非心臓手術を受ける患者を対象とした2件の前向きコホート研究の二次分析を実施し、周術期におけるSGLT2iの中止が、術後の心血管合併症および周術期EDKAの発生率と関連しているかどうかを評価しています。

 計451名が解析対象となり、平均年齢は72歳、女性の割合は22%、関連する併存疾患として、糖尿病(89.6%)、慢性腎臓病(76.1%)、慢性心不全(36.9%)を有していました。このうち393名(87%)の患者が、手術前にSGLT2iを中止し、58名は治療を継続しています。休薬した患者の中止期間は1日(177名、39.2%)、2日(155名、34.4%)、3日以上(61例、13.5%)でした。

 主要評価項目である術後90日内の急性心不全による入院および心血管死(Table2)は、SGLT2iの服用中止期間と関連しており、手術前にSGLT2iを中断しなかった群では1.7%(1/58名)しか発生しなかったのに対し、1日間治療を中断した群では5.7%(10/177名)、2日間中断した群では8.4%(13/155名)、および3日以上中断した群では11.5%(7/61名)と、中止した日数1日あたりの累積オッズ比1.58で発生頻度が増加していくことが示されました。FDA、AHA、ACC、ACS、欧州心臓病学会(ESC)、および欧州麻酔・集中治療学会(ESAIC)などが推奨するように、SGLT2iを3日以上中止した患者では、90日内の急性心不全による入院および心血管死リスクが約7倍高く(11.5% vs 1.7%)、さらに下図(Fig4)のように1年にも渡り、急性心不全による入院および心血管死のリスク増加と強い関連性が示されました。副次項目であるEDKAの発生率ですが、1日休薬した1名のみ(1/393名、0.25%)と少ないことも示されました。

 SGLT2iを突然中止した後に、急性心不全および心血管死のリスクが大幅に上昇する理由は明らかではありませんが、その機序として、それまでSGLT2iによって維持されていたナトリウム・水の排泄作用が反動的に失われ、体液貯留などのリバウンドが起こる可能性があります。この反跳現象は、周術期のように交感神経活動が著しく亢進し、体液シフトや炎症性ストレスが生じている状況で発生すると、とくに有害となる可能性があります。

これらの知見は、手術前の少なくとも3~4日間はSGLT2iの投与をルーチンで中止するよう推奨している現在のガイドラインを再検討すべきであることを示唆していますが、今後のさらなる前向き試験によるエビデンスが必要と思われます。皆さんも、SGLT2i休薬後の患者さんの状態を気にしてみましょう!