NEWS

新着情報

第9回 Anesthesia Morning Café – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble

第9回 Anesthesia Morning Cafe – Professor’s Wake-Up Bibble-Babble は、

Phelps CE, et al. Kappa opioid signaling in the right central amygdala causes hind paw specific loss of diffuse noxious inhibitory controls in experimental neuropathic pain. Pain 2019; 160: 1614-21

です。

 

Important Point Here!

 神経障害痛や慢性痛の状態では、下行性疼痛抑制機序のひとつである diffuse noxious inhibitory control(DNIC、広範性侵害抑制調節)が抑制されますが、kappaオピオイド受容体アンタゴニストの扁桃体への投与により回復することが示されました。情動に関与する扁桃体とDNICとの関連性がわかってきました。

 

 下行性疼痛抑制は皆さんご存知の通り、痛みを軽減し、慢性化を防ぐ生理的機構です。痛み刺激が末梢神経(Aδ、C線維)→脊髄後角→脊髄視床路→視床から大脳皮質体性感覚野に伝わり痛みが認知されますが、それと同時に中脳水道灰白質を起点に、橋の青斑核、延髄の大縫線核が刺激されると、それぞれノルアドレナリン系、セロトニン系と呼称される下行性経路より脊髄後角にNAあるいは5-HTが放出され、痛み刺激の伝達を抑制します。下行性疼痛抑制の中に、diffuse noxious inhibitory control (DNIC、広範性侵害抑制調節)というメカニズムも含まれます。DNICは生理学研究でよく使われている呼称ですが、痛み刺激が中枢に伝わると、延髄の背側網様核が起点となり、広範囲脊髄後角のwide dynamic range neuron(脊髄後角にあり、機械的、科学的、熱刺激の識別や侵害刺激として強度を識別する神経で、ゲートコントロール理論に関与する神経群です)の興奮を抑制する機序を指しますが、DNICが作動すると、その直後に加えられたさらなる痛み刺激に関しては、通常よりも弱い痛みであると感じます。しかし神経障害痛や慢性痛の状態では、DNICなどの下行性疼痛抑制機序が機能減弱していることが指摘されており、これを改善するには抗うつ薬などが必要となってきます。

 本研究では、ラット神経障害痛モデルでいったん抑制されたDNICが、kappaオピオイド受容体アンタゴニスト(ノルビナルトルフィミン)を投与すると回復することを示しています。ノルビナルトルフィミンは全身投与でもDNICを回復させますが、右扁桃体に局所投与してもDNICを顕著に回復させることから、この扁桃体でのkappaオピオイドシグナルが、神経障害痛モデルでのDNIC減弱に関与していると推察されます。扁桃体は情動や記憶に関係する部位ですので、痛みによってストレスがかかると内因性のdynorphinが扁桃体においてkappaオピオイドシグナルを活性化する可能性があり、ここをブロックすることでDNIC回復が得られたとも考えられます。