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第10回 Anesthesia Morning Cafe

コロナ禍の影響で医局員の集会は控えていましたが、久しぶりに Anesthesia Morning Cafe をオープンしました。

なかなか大勢は集まれませんでしたが、おにぎりやパンを頬張りながら会話ができました。

 

本日の話題は、

TRV0109101, a G protein-biased agonist of the μ-opioid receptor, does not promote opioid-induced mechanical allodynia following chronic administration.

Koblish M, et al.

J Pharmacol Exp Ther 2017; 362: 254-62

です。

 

Important Point Here!

本日、知ってほしいこと、それはバイアスアゴニストあるいはバイアスリガンドというワードです。あまり知られていない用語ですが、オピオイドを駆使する麻酔科医にとっては重要ワードだと思います。

”バイアス”とは”偏った”という意味で、モニターなど他機種の精度の比較をしたりする統計に出てくるワードです。薬物で”偏った”とはどういうことでしょう?

 

オピオイドはμ受容体などのGタンパク共役受容体に結合して、その鎮痛効果を発揮したり、副作用をもたらしたりしています。オピオイドがGタンパク共役受容体に結合すると、その細胞質内では受容体に結合しているGタンパクが活性化され、Gタンパクは受容体から離れ、その下流のGタンパクシグナルとして、カルシウムチャネルを抑制し脱分極を抑えたり、カリウムチャネルを促進して過分極にしたり、アデニルシクラーゼを抑制したりする結果、鎮痛作用をもたらします。一方、いったん活性化したGタンパク共役受容体は、もともとGタンパクが結合していた部分にβーアレスチンが結合することにより、脱感作され作用を終結したり、あるいはオピオイドに暴露し続けることにより受容体の内包化が生じたりします。βーアレスチンはこれ以外にも、Gタンパクとは異なる独自の下流シグナルを有し、たとえばオピオイド誘発性痛覚過敏や耐性、消化器症状や呼吸抑制などの副作用の発現に関与すると考えられています。つまりオピオイドが、Gタンパクシグナルを促進する一方、βーアレスチンシグナルを活性化しなければ、副作用がない理想的な鎮痛薬を創薬できるということになります。このGタンパクに偏ったシグナリングをもたらす作動薬のことをGタンパクバイアスアゴニストあるいはバイアスリガンドと呼びます。

 

さて今回紹介する論文は少し古いのですが、GタンパクバイアスアゴニストのひとつであるTRV0109101という薬物の鎮痛効果と、オピオイド誘発性痛覚過敏や耐性、消化器症状の発現の程度を、モルヒネやオキシコドン、フェンタニルと比較しており、非常に興味深い結果を出していますので紹介します。

まずマウスに生食あるいはオキシコドンを連日持続投与しながら、Fon Freyテストを行い、非侵害刺激に対するアロディニア誘発の有無を調べています。つまりこれはオピオイド誘発性痛覚過敏の調査です。結果、オキシコドン投与マウスでは、投与2日目には痛覚過敏が生じ、その後持続しました。同じ実験系でホットプレートテストを行い、侵害刺激に対する反応を見ていますが、オキシコドン投与群では最初は抗侵害作用を呈し、ある程度の熱に耐えられていましたが、2日目にはその鎮痛作用は消え、耐性を示しました。βーアレスチンをノックアウトしたマウスでは、オキシコドンを連日投与してもオピオイド誘発性痛覚過敏は認められませんでした。つまりオピオイド誘発性痛覚過敏の発現には、βーアレスチンシグナルが関与していると推定されます。一方、耐性はβーアレスチンノックアウトマウスでも認められたことより、耐性に関してはβーアレスチンとは異なる機序で生じている可能性が示唆されました。TRV0109101は、量依存性に鎮痛作用を発揮することがホットプレートテストで確認されましたが、糞便量は量依存性に減少していることより、消化器症状に関してはTRV0109101は有効なバイアスアゴニストとは言えない結果となっています。ただしモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルと異なり、持続投与してもオピオイド誘発性痛覚過敏を起こさない点では有効にバイアス化できていると判断されます。またモルヒネ投与でいったん生じたオピオイド誘発性痛覚過敏を、TRV0109101は見事に拮抗し得た点でも十分利点はあると考えられます。今後、μオピオイド受容体に作用する有用なGタンパクバイアスアゴニストが創薬されることが期待されます。